Trent XWB

飛行機で上空1万メートルを飛んでいても、空を飛ぶという偉業について改めて考えることはあまりないでしょう。ジェットエンジンは常に物理の限界に挑戦しながら、より静かで、より効率的になり、環境に与える負荷も削減し続けています。

わずか6年前、英ダービーのロールス・ロイス拠点から仏トゥールーズのエアバス本拠地に向けて、エアバスA350型機に搭載される最初のTrent XWBエンジンが送り出されました。Trent XWBはA350型機の唯一のエンジンです。

この最初のエンジングループが第一回目のオーバーホール時期を迎え、機体から取り下ろされて分解され、高い負荷に耐えてきた部品が交換されました。高圧タービンブレードが毎回離陸時に受ける負荷のレベルはF1レースカーに匹敵しますが、最初の交換が必要になるまで何千回もの離陸を繰り返します。

Trent XWB搭載機は数百万キロを飛行

現在、31の運用者が317機の航空機にTrent XWBを採用しています。二酸化炭素の排気削減に貢献し、より少ない燃料でより遠くに、確実に効率的に飛行し、信頼性、耐用性、汎用性の面で業界をリードする標準を実証してきました。

航空業界が歴史的な新型コロナウイルス感染拡大のショックから徐々に回復しつつある中、エアバスA350型機は他の航空機よりもはるかに多く運用されています。汎用性を持ち、貨物も旅客もどちらも運べ、燃費も良いことから、この機体の多くは少なくとも一日に一度は飛行しています。Trent XWBはロールス・ロイスが製造した中では最も信頼性の高いエンジンです。定刻通りに飛行準備が整っている割合は99.9%、つまりエンジンの問題で航空機が遅延する確率は非常に低いということです。同エンジンは、技術改良、軽量素材、高バイパス比、トレントシリーズを通じて25年間培ってきた効率性の改善といった様々な要素を通じて、最も効率性の高いエンジンとなっています。

オーバーホール不要で地球を350周

世界で最も厳しい環境下で、時に18時間続けて運転される航空機のエンジンとして、Trent XWBはかつてない耐用性と信頼性を実証しています。

Trent XWBサービス担当シニア・バイスプレジデントのエデール・スワンは次のように述べています。「ジェットエンジンは驚くほど複雑な工学部品から成り立っています。数万個の部品から構成されており、そのすべてが極限まで働いています。ジェットエンジンは常に物理の壁を超えようとしていますが、それにしてもTrent XWBが一度もオーバーホール無しにこれだけ長い期間飛行し続けられるというのは感動的です。これは、高性能な自動車が5年間、一度も修理工場に入る必要なく運転し続けられるのに匹敵します」

最初のオーバーホールのタイミング前に部品交換が必要になることは珍しいことではありません。新しく効率の良い部品が課題に直面することがありますが、これもイノベーションにはつきものです。しかし、Trent XWBは予定されたオーバーホール時期が来るまで一貫した性能を発揮してきました。また、最初のグループの平均飛行距離は、地球350周に匹敵する1,400万キロメーターにもなりました。飛行先は111都市におよび、いずれも期待通りの働きをみせ、予定外のメンテナンスが必要とされることはありませんでした。

部品の限界に挑戦する

既に10基以上のTrent XWBエンジンのオーバーホールが完了し、エンジニアがエンジン内部を確認しました。1万8,000個の部品から1,400個を取り外しましたが、最も高温になる部品を含め、ほとんどの部品が問題なく機能していることが分かりました。

定期エンジン整備の一環で実施した点検中、ごく一部のエンジンの中圧コンプレッサー(IPC)に摩耗の兆候が見つかりました。これらエンジンはいずれも4~5年間運用されており、最初のオーバーホール時期に近づいていました。また飛行中の異常はありませんでしたが、予防的措置として同等の運用期間を経たTrent XWB-84エンジンを全て検査することにしました。

既に予定されていた保守整備でのこの摩耗に対応する追加的作業量は限定的であり、予備部品や予備エンジンを提供できるため、お客様のスケジュールや年間コストに大きな影響を与えることは無いと見ています。

現在、運航期間4~5年のトレントXWB-84エンジンは100基超あり、既にそのほとんどの点検を完了しました。その際、点検した少数のエンジンの中圧圧縮機ブレードで平均1~2枚に摩耗の兆候が見られました。予防的措置の目的で、運航期間がより短いエンジンについてもサンプルを取って検査しましたが、摩耗の兆候は見られませんでした。

未来の修理技術

今回ロールス・ロイスは積極的なエンジン点検を通じてこの問題を発見しました。Trent XWBの運用期間を通じてこうした点検が行われており、修理や交換を予定していないものを含め無作為に選んだエンジンの部品を点検しています。そうすることで、同エンジンの信頼性を担保しています。

エンジン部品がリアルタイムで動く様子をモデリングするため、デジタルツインにデータを入力し、部品がどのように摩耗するかを正確に予測し、発生前に問題を特定したり、保守整備の予定を変更したりしています。

デジタルツイン技術は統合ブリスクやTrent XWB-97派生型の効率を向上するブリスクの修理にも活用されています。これらブリスクは非常に高価で、損傷した場合交換が難しい部品です。ロールス・ロイスは英国の大学機関と協力し、損傷が発生した部分を再構築するためのデジタルツインとレーザー技術を開発しました。

この他、エンジンからより多くのデータを得られるような技術にも取り組んでおり、航空会社のエンジニアがエンジンの点検やオーバーホールを行う際、これらデータをより簡単に活用できるようにしています。具体的には、100枚以上のタービンブレード画像を取得し、数分以内に3Dの映像モデル構築できる技術などを実験しています。この技術は光を最適化して画像を撮影し、そのデータをシステムに取り込むことで、様々な運用年数のエンジン部品の性能について、より良い全体像が得られます。

この技術を保守・修理・点検(MRO)施設に備えることで、交換予定の部品からデータを詳細な点検前に取得することができます。

厳しい環境に対する更なる備え

ロールス・ロイスのエンジンは日々厳しい環境の中で運用されており、あらゆる気象の変化に耐えられるよう構築され試験されています。しかし、一部地域では気候と大気汚染という複合要因によりエンジン部品が摩耗することがあります。

高圧タービンブレードが保護され、より長い時間使用できるよう、保護コーティングの試験を行っています。エンジン部品を損傷する可能性がある状況を再現し、その環境下で試験を行っています。例えば、2020年後半には砂を吸い込む試験も行う予定です。

新しいコーティングによって、厳しい環境下での高圧タービンブレードの耐性が大きく改善されたことが確認されました。認証を受けた後、これら改善点を将来のオーバーホールの際に取り入れていく予定です。