人工呼吸器増産の取り組みの裏側

英ブリストルにあるソーラーパネルが屋根に取り付けられた巨大な格納庫では、多くの活動がひっきりなしに起こっています。ロールス・ロイスのエンジニアらがそこで、軽量エンジンファンブレードからハイブリッド電気の発電機までの低炭素テクノロジーや次世代戦闘機の推進システムの最新化を手掛けています。そして現在、普段はエンジニアのトレーニングに使用される格納庫で、100人以上が人工呼吸器の生産に注力しています。

呼吸器生産を始めるのは大きな挑戦でしたが、ロールス・ロイスの社員は複雑な問題を解決し、違う発想で物事を考えることに慣れています。

当社の300人以上の社員が、呼吸器を増産する企業連合「VentilatorChallengeUK」に参加を決めました。個人的な思いから参加する人や専門的な技能を生かしたい人のほか、多くは自分にできる支援をしたいとの思いから参加しました。

参加者は24時間体制で働き、得意とする問題解決力を活かしながら企業連合の仲間らと連携して、非常に精密な機械を組み立てます。

ここでは、この人工呼吸器増産の取り組みの裏側を紹介します。

呼吸器生産ラインをゼロから作る

世界中の100社以上のサプライヤーから調達した部品の入った箱が、毎日現場に到着します。ロールス・ロイスのサプライチェーンの専門家らが、何百万点もの細かな部品を調達し、NHS(英国民保健サービス)で10年以上使用されている呼吸器「Smiths Medical ParaPAC Plus™」を増産しています。部品は既存の生産拠点の他、英ブリストルのロールス・ロイスや、GKNエアロスペースのに運ばれます。

生産ラインというと、通常は高速で自動化された工場のイメージが思い浮かぶかもしれませんが、呼吸器を作るには緻密で細かな作業が求められます。ブリストルの当社の呼吸器生産スペースはひっそりと静まりかえっており、それぞれの社員が最低2メートル離れたステーションで作業しています。

作業は思いがけない場所でも行われています。将来のジェットエンジンのファンブレードを生産する新しい設備をロボットが静かに通り抜けるそばで、社員らは生産ラインに運ぶ前に、呼吸器の部品受取や洗浄を行います。

チームに時間の余裕はありませんでした。プロジェクトマネージャーのアナ・ルイスは、「まさにゼロから工場をつくるようなものです。新しい設備をつくるには通常、半年から1年かけますが、今回は5週間しかありませんでした」と語りました。

デジタルトレーニング

生産ラインで働く大半の社員は普段、ジェットエンジンの組み立てや修理を担っています。呼吸器生産はこれとは全く違うものの、自分たちの製造経験や問題解決力を活かし、さまざまな障害を乗り越えています。チームは実地のデモや拡張現実(AR)、画像検査を組み合わせたトレーニングを受けています。

当社のトレーニングプログラムではすでに仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の活用を進めており、今回の取り組みから貴重な教訓を得ました。デジタルのツールへの依存を深めるなか、Trent XWBエンジンの運搬方法から、ビジネスジェット顧客へのテクニカルサポートへの提供の仕方まで、当社製品に関するエンジニアへのトレーニングには今後もテクノロジーを利用していきます。

限りなく緻密さを追求

この取り組みに参加するメンバーに話を聞くと、細かさという言葉が何度も出てきます。呼吸器生産の過程は極めて緻密で、一台の呼吸器に何百個もの小さな部品を組み立てて作ります。

航空会社や陸軍、海軍に動力を提供する普段の仕事では、安全が最優先事項です。呼吸器の基準も非常に厳しく、組み立て工程を通じて部品検査が実施されます。チームは品質を強く意識して作業を行います。このプロジェクトはかなり早いスピードで遂行されていますが、最も重要なのは最高品質の呼吸器を作ることです。

私が参加を決めた理由

ロールス・ロイス防衛部門メンテナンス・修理・改修組み立て工 

アーロン・プリチャード

3月21日、私の祖父はCOVID-19への感染の疑いで入院しました。22日に感染が確認され、悲しいことに、28日に亡くなりました。

一番つらかったのは、隔離制限のため家族が会えなかったことです。入院中も祖父のそばにいてあげられず、亡くなった後も、家族で一緒に悲しみ慰め合えませんでした。どんな家族も、そんな不幸を経験すべきではありません。

ここブリストルで「VentilatorChallenge UK」への支援参加をしたいか電話で聞かれたとき、すぐに参加したいと答えました。そのような取り組みへの支援をみんなが強く望んでいると思いますが、私にとって自分のつらい経験をかてに支援できる大きな機会でした。

これまでこのプロジェクトに取り組んでみて、われわれがプロジェクトの成功のためにあらゆる知識やエネルギーを生かし、非常に熱心に取り組む、やる気に満ち溢れたチームだと分かります。毎日この活動にかかわり、一歩前進するごとに、世界中でこの残酷な感染症の死者を減らすという目標に近づく実感をもてるのは名誉なことです。

私の将来のエンジニアとしてのキャリアがどのようなものになろうとも、これから先もこんなに多くの人の命を救うプロジェクトにかかわることはないと思います。この取り組みに参加するのは名誉なことです。何千もの家族が、私の家族に起こったことを経験せずに済むかもしれない。そのような大きな影響を与える会社の一員になれて非常に誇らしく思います。