将来的には、超小型機の動力として電池が使われ、中小型機の動力として電池、ハイブリッド、全電動、水素が、そして大型機の動力には大幅に効率向上したガスタービンが使われる可能性が見えています。航空業界がより持続可能な未来へ移行するなか、複数のソリューションが組み合わせて使われるようになるでしょう。
今しばらくは現在の航空エンジン、あるいはそれに非常に類似した派生形のエンジンが必要とされるものの、SAFや水素燃料が使えるようになる可能性は十分にあります。ガスタービンは長期的には今後も進化を続け、このようなすべてのテクノロジーを組み合わせて、さらに優れた性能を持つはるかに効率的なシステムになるでしょう。ロールス・ロイスは、革新的なテクノロジーの融合で、より効率が高い機械と電気のハイブリッドシステムを生み出し、更にはそのシステムが水素燃料で稼働する可能性のビジョンを抱いています。
新型コロナウイルス終息後の世界ではサステイナビリティが優先され、航空だけではなく、そのほかの交通分野も含めた長期的な技術開発という、世界の脱炭素化に向けた幅広いロードマップのなかで水素の活用について理解しなければなりません。
パワーシステムズ事業ではすでにいくつかの水素プロジェクトに積極的にかかわっており、貴重な実績を積んでいます。ロールス・ロイスは、このほどダイムラーとボルボが設立したジョイントベンチャーとパートナーシップを締結し、彼らの水素燃料電池をデータセンターなどの安全性を非常に重視する施設向けのカーボンニュートラルな非常用発電の定置電源として使用します。これは、非常用発電機、あるいは最大負荷時の対応に使用しているディーゼルエンジンにとって代わる、排出のない電源となります。マイクログリッドのソリューションにも活用できます。
また小型モジュール原子炉プログラムでは、グリッドに直接供給する、あるいはグリーンな水素製造のための電気分解に使用する、ゼロカーボンの電力が作られます。水素はその後、エネルギー担体自体として、あるいはSAFに転換して使用できます。
水素を基盤とした経済には多くの魅力がある一方で、幅広い普及、大規模生産、インフラ投資、大量貯蔵、輸送、安全面への配慮など、実現には壁があります。
また規模拡大によりコストが下がるよう、いかに水素技術の需給を同時に生み出していくかという課題もあります。水素が持続可能なソリューションとなるには、水素製造のライフサイクル全体を見ていかなければなりません。いまのところ、真に「グリーンな」水素はほとんど製造されていません。ただし、ロールス・ロイスの小型モジュール原子炉を使ってゼロカーボンの水素を生産することが可能です。
世間は気候変動に対して長期的対策ではなく、今すぐの行動を求めています。航空機を再設計する必要がないSAFは、この要求にすぐに応えられるソリューションです。今後はどのように水素を導入し、SAFのような解決策を補完していけるか考える必要があります。また、人々や文化が世界中でつながる需要が戻れば、長距離飛行においてはSAFが今のところ、唯一の選択肢であることを認識する必要があります(消費燃料の65%が1,000カイリ以上の飛行で使われています)。
水素は大きな注目を集めているものの、水素燃料で飛ぶ航空機は特効薬ではありません。SAFや電動化、ハイブリッド、より効率の高いガスタービンなどのさまざまなソリューションの組み合わせが必要です。それが色々な用途に動力を提供し、お互いに補完しあうことで、航空業界は脱炭素の目標を達成することができるのです。